tokyo art patrol - David Sylvian "Manafon"

06.11.09

何だか凄いところまで来てしまった、到達してしまったなというのがデイヴィッド・シルヴィアンの最新作「マナフォン」を聴いた時の最初の印象だ。デイヴィッドと初めて会ったのは80年代に彼がJAPANという、俗に言われる“ヴィジュアル・バンド”のリード・ヴォーカリストとして武道館を満員にし、女の子たちに嬌声をあげさせていた時。今はもうない“MUSIC LIFE”でインタビューをして欲しいという依頼を受け、話をしているうちに意気投合して、一緒にヴィデオを作ったり、展覧会を開催したりする親しい関係になっていったが、自分で望みさえすればポップ/ロック・シーンの人気アーティストになれたのにデイヴィッドはヒットチャートもレコード・セールスも関係ない、真にクリエイティヴな活動をするアーティストとしての道を選び、強い意志を持ってその活動を続けているのである。

ただ、そうしたことがわかった上でも、自身のレーベル、サマディサウンドから発売された約6年ぶりの新作「マナフォン」は、まさしく“アート”の領域に達し、そこで語られるべき作品だ。サックスのエヴァン・パーカーやギターのキース・ロウ、ギター+ラップトップのクリスチャン・フェネス、ターンテーブルを操る大友良英、ノー・インプット・ミキサー(外部から信号を入力せず、ミキサー内部のフィードバックで得られるノイズだけを演奏する)を駆使する中村としまる、ピアノのジョン・ティルバリー…といった世界的な即興音楽家、革新的音楽家たちが作り出すサウンドの中心に位置するデイヴィッドの歌声の絶妙な絡み合いはしばし時のたつのを忘れさせ、聞く者を確実に異空間へと連れていってしまう。その恐ろしいほどの緊張感と、美しい音世界は全くポップ/ロック・シーンから遠く離れた、いわば極北の地に存在していると形容したくなる類いのものだ。

そして、あくなき音の探求を続ける孤高の音楽家デイヴィッドの思いはサウンドだけでなく、歌詞にもはっきりと表れている。針音やかすかに聞こえる人の話し声、まばらなアコースティック・ギターやコントラバスが鳴り響く中、デイヴィッドの「こんなに遠くまで、はじめて来た/僕の新しいフロンティア/おまえはものごとの調和をはかる/まるでそれを信じないかのごとく/あるがままに放っておけばいいのに」と語るような調子で歌い始めるオープニングの「小さな金属の神々」からウェールズ地方の寒村の名前で、R.S.トーマスというウェールズの詩人が牧師を勤めた協会で知られる「マナフォン」までの収録曲の詩は、どれも知的で深味があり、デイヴィッドが影響を受けたジャン・コクトーや、敬愛してやまないタルコフスキーの世界につながっている。

また、アートワークにも心がこめられており、福井篤が撮ったデイヴィッドのポートレートやドロウイングとルード・ヴァン・エンペルのアートワークを使用したクリス・ビッグのデザインによるデジパック仕様のCDは、消費される“商品”ではなく、“作品”と呼ぶにふさわしいものになっている。サマディサウンドのCDは“TOKYO ART SHOP”でも扱っているので、是非手にとって、また聞いて、その素晴しさを確認して欲しい。

N.TACHIKAWA


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